随分と久しぶりになりました『平成仮面ライダー夏映画つれづれ語り』。
今回はつい最近『仮面ライダージオウ』での活躍でも印象的な『仮面ライダー555』の映画をば。
・かんたんなあらすじ
遠くない未来、どこかの国、人類の進化した怪人オルフェノクが世界の大半を支配した。
オルフェノクと戦った仮面ライダーファイズ=乾巧(半田健人)は記憶を失っていた。
そんな中、巧たちに悪意が迫る……。
・TVシリーズとの関係:パラレル
1.ファンとしては……
本作はTVシリーズとパラレルとはいえ、TV版の設定に関わるあれこれが明らかにされることが大きなイベントでもあります。
なので、初めてこの作品に触れるという方はTVシリーズ第25話くらいまでを事前に観ていて欲しいなァと思ったりもします。内容的には前作『龍騎』以上にダークな面もあるため、お勧めするには酷であることは分かってはいるのですが。
一方で、この映画に『555らしさ』がギュッと凝縮されているため、初めて触れるにはオススメな作品であることも確かなんですよね。
2."ここ"とは違う世界を描いたライダー映画
本作の大きな特徴は、平成ライダー映画としては初めて我々の住む現代とは大きく異なる世界=”遠い未来、どこかの国”を主要な舞台としたことでしょう。
以前語らせていただいた、劇場版『アギト』も『龍騎』も我々の住む現代日本と大きな違いがない世界のお話でした。
しかし、今回の『555』はそこからガラリと趣を変えているわけですね。
変わってしまった舞台で、TVシリーズからのキャラクターたちはどう変わり、どう変わらないのかという点が大きな魅力となります。
また、本作で行われた『仮面ライダーで異なる世界を描く』という方法論は、日本の分断された世界を舞台とした『仮面ライダービルド』をはじめとする、その後の作品にもつながっていると言えるかもしれません。
3.オルフェノクという『人類』が支配する世界で
『仮面ライダー555』の怪人オルフェノクが持つ一番の特徴は”人間であること”でしょう。
ある者はごく平凡な学生、ある者は社会人、そしてまたある者は企業のトップ……と形は違えど人間として生きてきた者たちがふとしたきっかけで変身能力を手に入れてしまった。
それがオルフェノクなのです。
あくまで変身能力を手に入れてしまっただけであり、心まで怪人になってしまうかはそれぞれのオルフェノク次第。
その心持ち次第で人間に味方するホースオルフェノク=木場勇治(泉政行)のような正義の味方(?)になることもできれば、ローズオルフェノク=村上峡児(村井克行)のように人間を支配せんとする側になることもできるわけです。
本作は、そんなオルフェノクたちが世界を支配してしまったらというイフの世界が舞台。
オルフェノクの世界というものも描かれるわけですが……一見して人間の都市とほとんど変わりありません。
しかし、オルフェノクの姿を往来で堂々と晒し、逆に人間や仮面ライダーの姿を見ると悲鳴を上げて逃げる様子には、オルフェノクの都市という特殊性が垣間見えます。
と、同時にやはりオルフェノクは”我々”とほとんど同じでなのだと感じられます。
怪人になったからと言って生活様式までガラリと変わるわけではないのだと。
それは同時に人間にも言えることで……ということが本作のキモとなります。
4.一万人の量産型ライダー、奇策か必然か
予告映像でも『一万人のライダー部隊』と謳われている今回の戦闘員、ライオトルーパー。
ファイズをダウングレードした強化服とも言うべきこのライオトルーパーは、仮面ライダーでありながら戦闘員というインパクト抜群の登場をしました。
ですが、考えてみると戦闘員的なキャラクターが怪人ではなく(本作の)仮面ライダー=強化服ということは必然なのかもしれません。
なぜなら、オルフェノクは『人類の進化形』だから。
人間が皆違う顔をしているように、オルフェノクもそれぞれ違った姿をしているはず。*1
ですが、予算作劇の都合上(苦笑)数多く登場するオルフェノクを全て登場させることはできないわけにはいかない。
それを解決するには、オルフェノクたちに怪人の姿とは違う戦うための姿=仮面ライダーを用意する必要があった。
そう考えるのが自然のようにも感じます。
まぁ、1ファンの妄想なんですけどね!(爆)
5.草加雅人、〇〇伝説の始まり
本作の『2号ライダー』である彼は、一見して仮面ライダーとは思えないほどトコトン歪んだ性格の持ち主です。
それと同時に、仮面ライダーとして彼独自の正義を貫いている部分もあり、今なおファンの間で根強い人気を誇るライダーです。
本作では、彼の……その、なんというか……とある強烈なシーンが描かれます。ネタバレになるので言えませんが!
まぁ、『龍騎』の仮面ライダー王蛇といい、アクの強いキャラクターを限られた尺の中でどう扱うのかと考えると自然とこうなるという感もありますが。
奇しくも、この後TVシリーズやTV小説版『異形の花々』(現在、講談社キャラクターブックから発売されているほう)、さらには2014年の映画『仮面ライダー大戦』と4度に渡る草加雅人の始まりといっても過言ではないでしょう。
複数の物語が作られた上に、仮面ライダーになると絶対に”そういう結末”を迎えるキャラクターというのはライダー史上でも珍しいのではないでしょうか。
それぞれ異なるシチュエーションなので、見比べてみるのも一興……かもしれません。
6.ボーイミーツガールとしての『555』
本作独自の特徴としては、ファイズ=乾巧とヒロイン・園田真理(芳賀樹里亜)とのボーイミーツガールとして完結していることでしょう。
2人の手が離されるところから物語が始まり、最終的には巧が真理の手を再び掴むまでの物語であるとも言えます。
映画の中では、巧が真理に散髪を任せるなど、2人の深い信頼が描かれる場面も多いです。
一方で、2人は決して恋愛関係にはなりません。
恋愛関係ではなく、さりとて男女の友情と一言では言い表せない独特な関係。
そんなピュアで不思議な関係性が、ドロドロとした人間ドラマの中でキラリと輝いている。それが本作の魅力の一つと言えましょう。
7.ノベライズについて
これまた平成ライダー映画としては初となるノベライズが『555』のタイトルで発売されました。
作者は当時ライトノベル界で注目され、後に一般文芸でも活躍することとなる桜庭一樹氏。
その割に大々的な宣伝は行われず、本屋の片隅にひっそりと平済みされていたイメージがあります。
表紙も『555』のシンボルである青い蝶が描かれているのみというシンプルなもの。
『仮面ライダーの小説』というより『映画のノベライズ』という部分を大きく打ち出した意欲的な装丁でした。
内容としては、『もしも本作が実際とは違うキャスト・スタッフで作られたら』というべきもので、大筋は映画と変わらないもののキャラクターの印象などは大きく異なるものとなっております。
映画版からは良くも悪くも”毒が抜けた”ように感じられる一方、小説ならではの胸に刺さるシーンがあったりもします。(「オルフェノクは耳が良いんだ」というセリフは15年経った今でもよく覚えています。)
現在入手の難しい一冊ですが、もしも運良く見かけることがあればお手に取ってみてはいかがでしょうか。
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