たまには、『fate/grand order』のSSでもゆるーく書こうかと思い。
pixiv(https://www.pixiv.net/novel/preview.php#2)にもあげた二次創作小説をこちらにも置かせていただきます。
唐突に、自分の好きなサーヴァントにはこんなオトコマエなところがあるんだよーと主張したい、そんな日もあるものです。
舞台は『fate/grand order』第1部あたり。
某サーヴァントの体験クエスト感覚で読んでいただければ。
2015年■月■日 カルデア・戦闘記録より抜粋
それは、いつものような任務だった。
いつもの、微小特異点修正
いつもの、2人だけのレイシフト。
そして、いつものような大ピンチ。
「レディースエーンドジェントルメーン!今宵の殺戮ショーへようこそ!」
道化のような装束をした男、キャスター・メフィストフェレスの声がコロシアムに朗々と響く。
「本日のプレイヤーは、この世界にたった二人で襲撃をしかけた少女たち!彼女たちが生きてこの闘技場を出られるのか、あるいはエネミーたちにいかにして惨たらしく殺されるのか、とくとご覧あれ!」
悪魔じみた風貌に相応しい残酷極まりない内容を嬉々として語るメフィストフェレスに、しかし観客席からは割れんばかりの歓声が響く。
「ウーン。良い声援(コール)ですね、みなさん。『自分よりも不幸なヤツを見たい』、『自分よりも惨い目にあう様を見たい』と言う熱量たっぷりの悪意、私大好きです!」
禍々しささえ感じられる歓声に、まるで最上の音楽を聴いたかのように満足げな笑みを浮かべるメフィストフェレス。
「さすがメッフィー、活き活きしてるなぁ」
夜闇に包まれた闘技場の中心で、そんな軽口をたたく少女、カルデアのマスターだったが、さすがに声が震えている。
闘技場(コロシアム)の司会者であるキャスターは、彼女と契約している『彼』ではない。しかし、カルデアの『彼』を通してキャスター・メフィストフェレスの残酷さを良く知っていた。
そして、カルデアのメフィストフェレスで無い以上、自分に対してその悪意を向けることに一切のためらいが無いことも。
「マスター、私の後ろから離れないでください。サーヴァント・シールダー、マシュ・キリエライト。何に変えてもあなただけは守って見せます」
もう1人の少女、マシュは名も知らぬ大盾を構えるが、その小さな肩に宿る恐怖の色はやはり濃い。
彼女らはたった二人。
カルデアからの通信は途絶、当然救援も期待できない。
対するは邪竜や巨人といった巨大敵性生物(エネミー)多数。
その状況、圧倒的不利。
「それでは、ゲームスタート!」
メフィストフェレスの号令と共に、エネミーたちの魔術的拘束が外れ、一斉に2人に襲い掛かる。
「はぁああああ!」
マシュは瞬間強化された脚力で跳躍し、邪龍に向かって盾を振りかぶる。
頭部にクリーンヒットさせたところに、巨人の棍棒が襲いかかるが、マスターの支援(ガンド)により敵の動きが止まる。
その間に華麗に着地したマシュは安全圏へ離脱。巨人の足元へ反撃をかける。
華麗な連携で闘技場を舞う二人であったが、本来戦う者ではないシールダーと戦う力を持たないマスターでは旗色が悪くなる。
特に厄介なのが、ここぞと言うときに起こる謎の爆発。
決して致命傷になることはないが、しかし連携を台無しにする攻撃が、どこからともなく仕掛けられる。
まるで、どんなことをしてでもマスターたちの希望をへし折らんとする悪意に満ちた……。
「メフィストフェレス、キミの仕業!?」
マスターが見上げた先にいるメフィストフェレスは、大袈裟なまでの拍手で応じる。
「その通り!ワタクシ、この特異点に召喚されてから爆発に凝っておりまして。この闘技場にコツコツと魔術回路に反応して爆発する魔術をしかけていたのですよ。この地道な努力を褒めて!」
「それは偉いけれども!」
「アリガトー!……それはともかく、良いんですか?余所見なんかして」
マスターとメフィストフェレスが短いやり取りをする間、わずかな隙が生じていた。
そのとき、ヒュドラによる致命的な一撃がマシュに迫る。
気付いた時にはマシュに防御の手段はなく、マスターに切れる手札は無い。
絶体絶命、その刹那。
「あらよ、っと」
銀色に光る剣閃がヒュドラを輪切りにしていた。
「あなたは……!?」
鮮やかに舞う髪、その四肢は少女のように細く、しなやか。
しかし、その背中はどんな大英雄に劣らず頼もしく。
「サーヴァント、セイバー、義も理もないけど助立ちするよ!」
ドゥ、と崩れ落ちる蛇の体。
それは、マシュが惨たらしく死ぬことを期待していた者たちの期待が台無しにされたことを意味する。
それを見た観客たちから、セイバーと名乗ったサーヴァントに向かって罵声が浴びせられる。
「はいはーい、声援ありがとー!」
嵐のような罵詈雑言を浴びせられるも、それを満面の笑顔で受け止めるセイバー。
「何を考えてるんですか、っていうか何をしちゃってるんですか、セイバー。あなた、私と桃園の誓いを交わした親友同士だったじゃないですか(大嘘)」
「ゴメンね、親友。ボク、そっちの陣営を抜けさせてもらいまーす!」
メフィストフェレスからの非難に、セイバーは動じること無く返す。
呼吸をするように混ぜられた嘘に気付いたかは不明だが。
「良いの、こっちの君はカルデアの君とは違うのに?」
思わぬ援軍に、確認をするマスター。
「おや、カルデア(そっち)にもボクがいるのかい?だったら是非今度紹介して欲しいな。あ、これボクのtmitterのアドレス」
なんとも軽いノリで令呪が輝き、仮契約が成立する。
「いやーボクも悩んだんだけどね。なにせいつもよりちょっとだけ理性的な霊基(バージョン)だし?お互い、戦う理由があってここにいるわけで。でも……」
改めて、マスターとマシュを見る。
「こんなに頑張ってる2人を見たら、協力してあげないのは嘘だなって。それに、騎士が女の子に協力するのって騎士道物語の王道だし」
3人の眼前に迫る巨大エネミーは未だ多い。
「安心して、マスター。状況は今三つくらい良く分かってないけど、このサーヴァントセイバー、真名アストルフォ。この状況をひっくり返して見せるから」
ニカっと笑うアストルフォの笑みを見たマスターとマシュからは不思議と、恐れが消えていくようだった。
そして、マスターの剣と楯は飛び出した。
絶望的状況を覆すために。
「さぁ、行こう2人とも!」
大型エネミーからの攻撃は容赦なく彼らを襲う。
しかし、鮮やかな連係によってそれに立ち向かう。
「ガリガリいくぞー!」
手にした剣を鞭状に変え、エネミー達を転倒させていくアストルフォ。
「危ない!」
そこに迫った大鬼の吐息を防御するマシュ。
「キミ、大丈夫!?」
「はい、戦闘続行、可能です!」
しっかりとした声でマシュは答える。
その言葉通り、ダメージをほとんど受けていない。
その防御力にアストルフォは目を丸くする。
「すごいね!キミ、名前は?」
「シールダー、マシュ・キリエライト。先輩のサーヴァントです!」
「オーケー、マシュ。せっかくだし、このあとデートしようか」
「デ、デートですか!?」
「コラコラ。そういう話はこちらを通してからにしてください」
「保護者さんに怒られちゃった、てへっ!」
戦いの中でも段々と軽口が入るようになっていく。
パーティのメンタルが、まるでアストルフォに釣られるように余裕が増してきていた。
「それで、マスター?ここからどうする?何か考えがあるんだろう?」
「うん。ここは闘技場(コロシアム)。なら出口がある。それも、エネミー達が出てきた飛びきり大きいのが!」
マスターの視界のさきにあるのは、巨大な扉。
見た目は木製だが、実際は幾重にも魔術的防御が施されている。
サーヴァントがマシュ単騎であればとても突破できないが……
「アストルフォもいればアレを壊せるはず!あそこから脱出しよう!」
「よし、やろう!」
「マシュ・キリエライト、オーダーを受諾いたしました!」
そうはさせじとエネミー達が殺到する。
「シールドエフェクト、発揮します!」
その猛攻をマシュが防ぐ。
「サンキュー、マシュ。さぁ、次はあの扉だ!僥倖の(ヴルカーノ)……」
アストルフォが宝具の一撃を見舞おうとした瞬間、マスターの本能が警報を鳴らした。
「下がって、アストルフォ!」
爆発。
広大なコロセウムの半分を飲み込もうかと言う勢いの炎と煙が辺りを飲み込んだ。
「おや、おやおやおや」
紅蓮が晴れた先にいるマスターと2騎のサーヴァントは、円卓に守られ無傷。
そして、その視界の先、扉の前に立つのは、司会進行をしているはずのキャスター、メフィストフェレス。
「扉に特大の爆弾を仕掛けたなんて、ワタクシ言った覚えないんですけど、どうしてわかっちゃったんです?」
3人の猛攻に、自ら妨害に打って出た!
「まぁ、私の知ってるメフィストフェレスなら、これくらい普通にやると思って」
「おやおやなんと。それは残念。では、その良く知るメッフィーに普通に殺されちゃってください。」
その言葉と共にメフィストフェレスの周りを懐中時計のような幻影が覆う。
その様子に、マシュがマスターを守るべく前に出る。
「両目、脇腹、膝、脊髄、設置完了!微睡む爆弾(チクタク・ボム)!!」
メフィストフェレスの弾けるような笑い声と共に爆炎に包まれる……アストルフォ!
「うわー、やーらーれーたー!」
必殺の宝具を受けたはずの彼の口から出るのは、軽口!
「大丈夫ですか。と、言うよりやられてませんよね、アストルフォさん!?」
「うん、オッケー!バッチリ、大丈夫!」
「一体、どうして……?」
「ああ、コレ?ボクの宝具『分別なき偶像暴走(クレイジートリップ・ドライブアイドル)』。普段は封印してるんだけど、使って良い流れだったよね」
『分別無き偶像暴走』。それは、ライダークラスでの宝具でもあるヒポグリフの力を使うことにより、自身を虚数的存在とするアストルフォの宝具である。
「ワタクシの宝具を理不尽な理屈で避けるとは、さすが親友!では改めてお相手仕りましょう!」
鋏を手に、アストルフォに襲い掛かるメフィストフェレス。
「オッケー、親友。因縁の対決と行こうか!」
蛇腹剣を振るうアストルフォは鋏の猛攻を華麗に捌く。
対するメフィストフェレスはトリッキーな動きと、不意の爆弾で迫る。
さらには生き残りのエネミー達の攻撃が、アストルフォらを襲う。
「いやいや、本当はワタクシ平和主義者なんですけどね?」
「えー、前は好戦主義者とか言ってなかったっけ?」
「いえいえ、平和大好きですよ?何しろ、上っ面の平和は壊れるのが一瞬ですから。そう、こんな風に!」
一際盛大な爆発が、観客席の方から上がる。
「なにを……!?」
味方であるはずの観客への攻撃に、マスターは驚きの声を挙げる。
「特に意味はありませんよ?でも効くでしょう、こういうの?」
その驚きは、メフィストフェレスが不意を突くのに十分。
「やらせないよ!」
蛇腹剣を伸ばし、妨害するアストルフォ。
「マスターだけじゃなくて、観客もね」
アストルフォの言葉に、マスターが観客席を見上げると、観客の避難誘導を行う、多数のアストルフォが。
『分別無き偶像暴走』による、アストルフォの多重分身だ!
「良かった……。観客は無事なんだね」
「ぶい!」
「なんなんですか、あなた。どこまで私の趣向を台無しにしたら気が済むんです?」
メフィストフェレスの表情は崩れない。しかし、言葉の端々から隠しきれない怒りがにじむ。
メフィストフェレスにとっては、残酷で悪意に満ちたショーを演出すべく重ねてきた努力を泡にされたようなものだろう。
「悪いけど、どうもボクとキミの趣味嗜好は平行線っぽいね」
「そうですか。なら、ええ。ワタクシとしてもコレはあまりやりたくありませんでしたが、まぁ契約成立の代価と言うことで!」
パチンと指を鳴らすと、エネミーの死体や避難していた観客たちが青白い火の玉へと姿を変え、メフィストフェレスの元へ集う。
「ここにいたエネミーや人々の正体はゴーストだったのですか!?」
「ええ、ええ。この特異点を形成するのは、彼らの無念。後悔、嫉妬、憤怒……。様々な負の感情を胸に死んでいった者達の想い。何を隠そうワタクシ、そうしたモノに喚ばれた身でして」
その言葉を最後に、メフィストフェレスの姿は消える。
代わりに現れたのは、ヒュージゴースト。
それも、マスターたちがこれまで見たことのないほど巨大で、禍々しい個体。
その爪が、悪意ごとマスターに迫る。
一番戦力の無い(よわい)相手を優先して狙ってくる!?
「させません!」
マシュが、スキルを使ってその攻撃を引き受ける。
「キミたちの相手はこっちだよ!」
「そゆこと!」
「ボクも忘れずに!」
「オールキャストで行こう!」
そして、四方八方から、多重分身したアストルフォの剣が、ヒュージゴーストに向かって踊りかかる。
「攻撃はこちらが引き受けます!」
「だから、アストルフォ、頼んだ!」
マスターの令呪が光り、ありったけの援護(スキル)が2騎のサーヴァントに飛ぶ。
「真名、偽装登録……行けます」
「オッケーマスター!ボクはやるぜー!かなりやるぜー!」
「巨人!ここに捕らえたり!」
「僕の必殺技、見せる時が来たか!」
「どうか絡まりませんように!」
「カリゴランテの剣!行くぞ!」
ヒュージゴーストの猛攻を引きうけんと、マシュが宝具展開の準備をする。
その横でワチャワチャとしているアストルフォ軍団。
「なんだか緊張感無いけど……頼んだ!」
「宝具、展開します!」
モザイク状の光が周囲を包み、そして!
「月を見上げるうさぎとて」
「華麗に可憐に」
「理性の無いときもある」
「舞って散りゆく月下美人」
「暴れる巨人をとっ捕まえて」
「十重に二十重にギリギリギリギリ!」
「勇気りんりん行進だ!」
「よーし。僕ってば、カッコいいぞー!」
「みんな、行っくぞー!」
「「「「「「「「「「僥倖の拘引網(ヴルカーノ・カリゴランテ)!」」」」」」」」」
月光のごとき白刃がいくつもヒュージゴーストに殺到する。
爆散!
「さんはいッ。ボクのキメ顔、かわい格好良い!」
崩れ落ちていくヒュージゴーストを背に、キメ顔と共に1人へと戻るアストルフォ。
「なんとまぁ、締まらない終幕ですね」
そうつぶやいたのは、ヒュージゴーストの中から現れたメフィストフェレスだった。
その霊基は、少しずつ光へと散っていく。
「この地へ喚ばれ、契約に従い、召喚主達の無念に供物をささげるべく、ガラにもなくアレやコレやと考えて準備を重ねてきた結果、何も考えずとも善玉な騎士サマに全てをひっくりかえされるなんて。ワタクシ、ちょっぴり凹みますよ?」
最後の最後まであくまでも道化た素振りを崩さないメフィストフェレス。
それが彼なりの意地であるかのように、マスターには見えた。
「結局さ。ボクは自分が気持ち良いと思う風に動いただけなんだよね。それがもし善に見えたとしたら、次の召喚では、ノリで動いたキミの隣にボクが立っているかもだよ?」
「なんと。むしろ頭をからっぽにしなかったのが敗因だったとは!次の召喚に向けてワタクシ随分な課題を与えられてません?まぁ、それは別のワタクシのことなので無問題なのですが……」
言って、メフィストフェレスはアストルフォ、マシュ、そしてマスターの3人を見た。
「ともあれ、司会進行として舞台はしっかり閉じなくてはなりません。皆様、見事な演技を見せたプレイヤーたちに拍手を!」
3人を祝福するかのような歓声が響く。
それが、観客(ゴースト)たちの声だったのか、あるいはメフィストフェレスの魔術だったのかは、3人には分からない。
しかし、次の瞬間、メフィストフェレスも、闘技場も姿を消していた。
代わりに、辺り一面の花畑。
「これは……」
「マスター、あれを見てください」
マシュが指差した先には、小さな石碑。
「なんて書いてあるんだろう……」
「『この地に散った戦死者を悼む』と書いてあるようです」
半ばかすれて読めなくなっている文字を、マシュはなぞる。
『なるほど、その戦死者の無念と聖杯が結びついて、今回の特異点が生まれたと言うわけか』
「ドクター!?」
通信機越しに、カルデアのドクター・ロマンが姿を見せる。
『お待たせ、ようやく通信が回復してね。その様子だと、微小特異点は無事修復できたようだね』
そう言われて初めて、マスターは自分の手に聖杯が握られている事に気がついた。
『ロマニ、そんな風に余裕ぶるのは格好悪いぜ?ここだけの話、通信が回復するまでキミ達が心配でめっちゃテンパってて……』
『ちょっと、それは秘密の約束だろ!?』
『えー、そーだっけー?』
『ダ・ヴィンチちゃーん!』
通信越しに感じる、カルデアの和やかな雰囲気にマスター達の口から自然と笑みがこぼれる。
「それじゃ、ボクはここまでみたいだね」
と、口火を切ったのはアストルフォだった。
「もうお別れなんですか、アストルフォさん。本当は、もっと色々お話したかったんですが。その……デートのお約束はできませんけれど」
「ありゃ、フラれちゃったか」
「ありがとう、アストルフォ。キミがいてくれてお陰で、なんとかなった。戦力的な意味だけじゃなくて、心の方も」
「まぁ、ボクはシャルルマーニュ十二勇士一番の小物だから、これ位はね~」
そう言いながらも、まんざらでもなく笑うアストルフォ。
その霊基は少しずつ光へと変わり、散っていく。
舞って、散っていく。
「さらば、少女たち。ううん、現代の勇士たち。短い間だったけど、キミたちとの戦いはとても心地の良いものだった。カルデアのボクも、きっと同じ思いだろう」
そう言って、アストルフォは去って行った。
「アストルフォさん、最初から最後まで笑顔でしたね」
「そうだね、私たちも彼のように戦い抜きたいね」
そうして、マスターとマシュもその場を離れる。
次なる戦い、未来を取り戻すための旅路に向かって。
後にはただ、華だけが舞っていた。
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