ムソウノカキオキ

管理人の好きなこと(アニメ、特撮、オモチャetc)についてつらつらと語っていくブログです。色々遅いですが、よろしければコメントなどもお気軽にどうぞ

『仮面ライダーゼロワン』を観終えて

 先日、特撮ヒーロー番組『仮面ライダーゼロワン』(以下『ゼロワン』)が最終回を迎えました。
 まずは、番組を作ってくださったスタッフ・キャストの皆様に拍手を。
 『コロナ禍』なんて言われる中、急な中断をはさみつつも番組を作り上げて下さり、1仮面ライダーファンとして大変に感謝しています。
 しかし。
 それはそれとして、個人的に『ゼロワン』の物語へ乗り切れない部分があったのは偽りの無い感想でもありました。
 乗り切れないのと同時に、「惜しい」と感じられることも多くありました。
 今回は、そんなモヤモヤとした感情を噛み砕いて行きたいと思います。
 あ、そんなワケなので辛口な内容になります。
 「最初から最後まで『ゼロワン』最高だったじゃーん!」と言う方は、ここでお戻りになることをお勧めします。

・多すぎるテーマ、見えづらいメインテーマ
 『ゼロワン』という番組の主人公はAI企業の社長が変身する仮面ライダーです。
 この時点で、番組のテーマは1.AIとどう向き合うか2.社長と言う仕事にどう取り組むか3.仮面ライダーとしてどう世界を救うか
 この3点が(どれが最優先かはさておき)描かれることだろうと考えられます、多分。*1
 実際の番組では、のテーマと被りつつも、心に芽生えた悪意とどう向き合うかと言うことをメインとした最終回が展開されました。
 正直、この方向性が明確になった42話を観た時は「オイオイ、こんな終盤にそんな話をするのかよ」と思いました。
 いえ、『悪意と善意』と言うワードは第9話*2でも言及されるなど、急に出てきたワードと言うわけではありませんでした。
 しかし、最初に挙げた3つのテーマが描ききれてない段階(と自分は感じました)で提示するに相応しいテーマだとは感じられませんでした。

 3つのテーマに対する目配せ自体はされていたのですが、最終回間近になっても、キャラクターからの結論が見えなかったというべきでしょう。


 つまり、『仮面ライダーゼロワン』と言う番組はテーマが多く、その中での一番のメインテーマがどれなのかが見えづらい番組だったと感じたのです。

 

・深まらないテーマ、”溜め”の許されない30分
 AI、仕事、仮面ライダー、そして悪意。
 それぞれのテーマに対して、ゼロワンこと飛電或人のみならず、主要人物たちはそれぞれ独自のスタンスを持っていました。
 しかし、そのスタンスは「私はこう思う」と提示されるだけで、異なる考えを持つ主要人物同士の交流によりそれぞれの考えがより深まっっていった……と言う印象はありませんでした。
 たとえば、仮面ライダーバルカンに変身する不破諫は、AIロボット・ヒューマギアに対して当初強い不信感を持っていました。
 それは、ヒューマギアを信じる飛電或人の考えとは対照的。
 その両者がぶつかり合うことで考えが深まっていくかと思いきや、不破は或人とはあまり関係の無いところで考えを軟化させていきました。*3
 これは不破の魅力を示すことには繋がりましたが、或人のヒューマギアに関する葛藤や、信念を強化・変化すると言ったことには繋がりませんでした。
 それは、AIとどう向き合うかと言う作品テーマ(?)が深まらないことを意味します。
 もしかしたら、自分が作品のテーマだと思っていたものは、視聴者に興味を持ってもらうためのフックに過ぎなかったのではないかと、今では半ば本気で考えています。

 他にも、当初或人に不満を抱いていた副添副社長が彼を信じる過程があまり描かれなかったので、或人を信頼しだしたときは「なんか急に格好良いみたいなことを言い出した!?」と驚くことになったり……。
 とはいえ、葛藤や過程、あるいはその他説明台詞等々はその後に活かすための”溜め”のシーン。
 それ単体では、視聴者さんが退屈してしまう場面ではあります。

 他にもカメラを向ける要素がある中で、”溜め”の描写を極力省くと言うのは、30分のあいだ視聴者を飽きさせないための冴えた判断……なのでしょうか……。

 こうした方向性が、『ゼロワン』のなかで一番のモヤモヤポイントな気がします。

 これは余談ですが、なので、途中で総集編と言う振り返りの時間が出来たことは、むしろ良かったと考えています。
 お仕事勝負のお題がAIの不得手とされるものだという、作中では明言されていなかった設定や(プレジデント・スペシャル)、滅亡迅雷の4人がどんなことを考えているのか(35.5話)と言ったポイントは、総集編があったからこそ触れることができたポイントでしょう。


・”1年間のイベント”としては成功?
 視聴者に話題を提供すると言うことに、『ゼロワン』と言う作品は冗談抜きで力が入れられていた作品だったように感じます。
 まず、多方面とのコラボ。
 「東京ガールズコレクション2020 SPRING/SUMMER」(TGC)での撮影、AIBOの出演。珍しいところでは『PERSOL workstyle-award 2020』キャラクター部門を受賞したことも挙げられるでしょう。

 また、第1話*4のゲストにお笑い芸人の中山きんに君さん、第10話、第11話*5で本人役で出演した大和田伸也さんと言ったキャスティングの面でも注目されました。
 こうした取り組みにより、既存の視聴者には『ゼロワン』に関する新しい話題を提供し、今まで『仮面ライダー』を観ていなかった人にも興味を持ってもらうきっかけを作ることに成功しました。

 

 コラボ以外の毎回の番組でも、話題づくりや視聴者を飽きさせない工夫がふんだんに取り入れられていたように感じられました。良くも悪くも。
 例年は2話完結が多かったのに対して、特に序盤は1話完結のエピソードが多め。
 賛否両論あろう振る舞いを見せ、「自分はこう思う」「いやいや自分はこう思う」とSNSで議論を活発化させるきっかけを作る。
 そして、毎回次回への布石を敷いたり、キャラクターをピンチへ追い詰めることで「次はどうなるのか!?」と視聴者が次回も観るように導く。

 

 特にキャラクターの追い詰め方は徹底しており、もはやお話作りの段階で『キャラクターをどう追い詰めるのか』と言う点ありきで作られているのではないかと考えてしまうくらいです。

 

 或人は、会社が段々と苦しい立場に追い込まれた揚句に社長を辞めることになると言うのが序盤~中盤にかけてまでの流れでした。
 自分のルールを最優先する不破は、そのルールの根幹をなす記憶が偽りだった、とすることで精神的にピンチとなりました。
 クールで真面目な刃唯阿は、勤め先がブラック企業であることがどんどんと明らかになり、けれども(なぜか)辞めることができず、追い詰められていきました。

 

 改めて振り返ると、整合性やリアリズムはともかく、この追い詰めっぷりは職人芸の域。
 脚本の高橋悠也をはじめとするストーリーを考えている方々の手腕を感じさせます。*6
 ですが、「次はどうなるのか!?」と思っている視聴者(=自分)は、ピンチの後にキャラクターが大逆転してくれるだろう、あるいはこの苦労に見合うだけの大きな成長をするだろうと同時に期待しているんですよね。
 期待通りのカタルシスが感じられたかと言うと、微妙……ハッキリ言ってノーでした。


 1年間展開する番組として、話題性やキャラクターのピンチで視聴者を引き付けることには大いに成功したと言って良いでしょう。
 しかし、それに見合ったもの、と言うか自分が欲しかったものが、番組にあったとは言えませんでした。

 

・それでも、良かった点はあった
 あれこれ書いた脚本ですが、ヒューマギアは純粋な存在であり、だからこそ容易に善にも悪にもなるという点はなんとかブレなかったのが良かったです。

 主演の高橋文哉さんをはじめとするキャストはいずれも名演を見せて下さいました。
 特に、高橋さんの、決して下品にならないコメディ・シーンから、悲壮な表情を見せるシリアス・シーンまで演じきるその振れ幅が印象的でした。
 若いキャストと共に二人三脚で各仮面ライダーを作り上げたスーツアクターの皆様の活躍ぶりもお見事。仮面ライダーゼロワン 役の縄田雄哉さんは新主役というプレッシャーを跳ね除ける名演でした。
 新たにアクション監督となった渡辺淳さんの殺陣は、戦いのプロセスや戦略が感じられる部分も多く、時にゲーム的ともいえるくらいなのですが、それが毎回の演出*7と組み合わさることでドラマチックに描かれていました。第30話*8で復活したゼロワンの大活躍は、まさに『ゼロワン』アクションの真骨頂と言っても良いでしょう。
 ほかにもたくさんの方々の活躍により、「おお!」と思わせるシーンが多かったのも事実。


 それだけに、シナリオ面で、AIやお仕事と言った、素晴らしいドラマを描く余地が、余地として終わってしまったことがとにかく惜しい。

 とはいえ、視聴率が取りづらく、SNSの発展した昨今においては、視聴者の注目をひき、ネットやSNSでの話のタネになる番組を作ることは、TV屋さんとしては大切なことなのでしょう。
 ただ、一個人の好みの問題として、そうした作り方をされた番組は肌に合わないなァというのが本音です。

 それはそれとして、数年後に、「『ゼロワン』って駄目なところも確かにあったけれど、こう言うところは良かったよね」とSNS上で語り合える作品になれば良いなァとも、同時に思います。
 自分、なんだかんだ言いつつ、仮面ライダーのファンなので。

 

*1:個人の印象です

*2:第9話『ソノ生命、預かります』、仮面ライダーゼロワン ブレイキングマンモス初登場回

*3:第9話『ソノ生命、預かります』、仮面ライダーゼロワン ブレイキングマンモス初登場回

*4:第1話『オレが社長で仮面ライダー

*5:第10話『オレは俳優、大和田伸也』、第11話『カメラを止めるな、アイツを止めろ!』

*6:あまり詳しくは無いのですが、番組のストーリーは脚本家だけでなく、プロデューサーや石ノ森プロの方々の参加する脚本会議によって作られるらしいです

*7:監督やカメラマン、さらにはCGエフェクトなどなど

*8:第30話『やっぱりオレが社長で仮面ライダー