機界戦隊ゼンカイジャー 最終カイを終えての感想
先日見事なハッピーエンドを迎えた『スーパー戦隊シリーズ』第45作『機界戦隊ゼンカイジャー』。
その感想を語り倒していきたいと思います。
稀代の怪作か、オバカ戦隊か。
いやいや、その実シリアスな、そして実にシリアスに『スーパー戦隊』をしていたのです。
(以下、ネタバレ注意)
・ドラマ部分の魅力
自分が『ゼンカイジャー』に本格的にハマりはじめたのは、物語後半。ハカイザーが出てきてドラマ部分が大きなうねりを見せてからでした。(格好いいですよね、ハカイザー)
もともと、本作にはドラマ的な部分に注目しておりました。
両親が行方不明の介人、虐げられてきたキカイノイドたち、敵も同じキカイノイドであるトジテンド、一筋縄ではいかない登場人物同士の関係、そこから生まれる多様性……。
その気になればどこまでもシリアスにできるところを、ひたすらコメディで突っ走ったのが本作の魅力。
しかしそれだけに、物語後半にこれまで影ながら積み重ねられていたドラマ部分がグワっと顔を出して大いに盛り上がり、魅了されました。
……逆に言えば、コメディとしての『ゼンカイジャー』にはそんなにノれなかったかも。この辺は個人的な好みの話になっちゃうんですけどね。
とはいえ、普段がギャグだからこそ、泣ける回、燃える回が際立つのが『ゼンカイジャー』という作品の妙味なのもまた事実。
シリアス、なんですよね、根っこは。
どれだけオバカをやっているように見えても、ベースの設定は殺伐としているし、登場人物は大真面目に戦いをしている。(だからこそ、ギャグ回でもシリアス回でも誰もキャラがブレない)
ステイシーまわりをはじめ、日曜朝にやるには重い設定もありもする。
それを日曜朝にお出しするにはどうするか?
という回答として、コメディでコーティングするというアンサーが本作の構造なワケです。
ただオバカをやりたいだけなら設定もオバカにした方がラクなように思えます。
なんなら、重めの設定なんてバックレてしまったほうが良いように思える時も。
けれども、本作はシリアスな設定を決して忘れ去らず、そのうえで『明るく楽しく』を貫き通しました。
「これって実はシリアスよね?」
そんな風に考える視聴者に対しても誠実なシナリオだったと
もちろん、シナリオの縦筋もカンペキなわけではなく、大事なところは魔法頼み、最終決戦が成立するには文字通りの神頼みかーい!とかも無いでは無いですが。
これが『仮面ライダー』シリーズだったら、組織壊滅までの道のりを理詰めで考えるのですが。
本作の場合は登場人物の心理描写(とギャグ)にウェイトを置いている感があるのが脚本の色が出ているようで面白い感じ。
・”オバカ”の方向性の違いと和解
『ゼンカイジャー』という作品を、ちょっとシリアスに捉えた場合。
一見して、ゼンカイジャーもトジテンドも、オバカで愉快な人たちに見えます。*1
けれども、一点において、そのオバカさは異なりました。
ゼンカイジャー側はほかの人を考えられるオバカ。
トジテンド側は他人の言葉を聞き入れないオバカ。
粗暴、浅慮、と言い換えても良い類のものでしょう。
イジルデが介人から自分の罪を叩きつけられて倒されたのは言うまでもなく。
バラシタラは自分の家族であろうとも利用する以上の考えを回すことは無く。
ボッコワウスに至っては、ゼンカイジャーとはマトモな会話を一切していないんですよね。
会話が成立していないから、結果として自ら話し合い、和解のための道を放棄してしまいました。(それを見せつけるための存在となったゲゲ、合掌……)
愉快な人たちには違いがないので、すこし寂しい。
作品テーマとしては、トジテンドは『外の世界からやってきた、立ち向かうべき困難のメタファー』みたいな存在なので仕方が無いのですが。
あと、話し合いでどうにもならないなら戦うしか無いよねということも往々に起こりえるという話でもあります。
そして、ジュランたちキカイノイドやステイシー、ゴールドツイカー一家は『外の世界からやってきた、友達、楽しいこと、嬉しいこと、無限の可能性』というわけですな。
トジテンドとの対決が殺伐としていた分、神との戦いが和解で終わったのがホッとしました。
あの神は、残酷なことをサラっとやってのけるような理不尽な神様ではありますが*2、少なくとも対話とジャンケンに応じる知性……もとい余地はあった。
負けを認めた神に介人がかける言葉が「ありがとう」なのが良いですよね。
ジャンケンのあと、「やっぱりナシ」っていうこともできたわけで、それを介人も何となくわかっていたように見えました。
・ゼンカイジャーVSゴールドツイカー一家VSステイシーザー
本作は、追加戦士が2人=ツーカイザー&ステイシーザーがいるわけですが、彼らの立ち位置がこれまでの多くの追加戦士とは異なっていたのも印象的。
前年『魔進戦隊キラメイジャー』のキラメイシルバーのように、戦隊チームの一員になる、という具合ではなく。
ツーカイザーはゴールドツイカー一家、ステイシーザーはトジテンド、と異なるコミュニティに所属しているのが好対照。
毎回の構成はだんだんと、お話の中心となるゼンカイジャー、襲い掛かるトジテンド、引っ掻き回すゴールドツイカー一家、本筋を回すステイシーといった具合に集団単位での動きを活写していくことがメインになっていったように感じます。
戦士同士の距離感は、どこか『仮面ライダーシリーズ』的でもあり、一方で複数の集団が入り乱れる様はまさしく戦隊であり、と過去の戦隊とはまた違った観ごこちが生まれていました。
強いて言えば、同じく香村純子さんが脚本を務めた『怪盗戦隊ルパンレンジャーVS警察戦隊パトレンジャー』を一歩推し進めた感じでしょうか。
こうした、わかりやすい大ネタ(4人のロボヒーロー!とか)とは違ったところでも数々の新機軸が取り入れられていたのも本作の魅力でした。
・キャラクターの魅力とスーパー戦隊の枠組み
それだけに、もっと”戦隊っぽい”話を観てみたかったのも本音。
30分まるまるキカイノイド組の友情譚とか、リッキー&カッタナーの双子劇場とか。
こう、介人やゾックスがちょっとしか出てこないヤツ。
いや、それだと戦隊じゃなくて『不思議コメディシリーズ』だって?そうだよ!(爆)
真面目な話をすれば、着ぐるみ組のキャラクターも単独でストーリーが生まれるほどの魅力を感じるだけに、素面の役者さんが中心となるという『スーパー戦隊でよくある作品』に纏まっているのが惜しいと感じられたり。
ロボヒーローを登場させながらもロボ戦も例年通り等身大戦からの第2ラウンドという扱いでしたし。
良くも悪くもコメディ戦隊の枠を超えていない、『スーパー戦隊』のスタイルそのものを案外とぶっ壊していないのもこの作品の特徴なのかも。*3
そこを、ギリギリを攻めつつもシリーズの枠組みを守っているとみるか、マンネリ打破に至らず惜しいと感じるかは人それぞれかと思います。
……まぁ、そんな不満が生まれてくるのも、なんだかんだこの作品を楽しんでいたからこそ、なんですけれどね。
・そして、『暴太郎戦隊ドンブラザーズ』へ
こうして、シリアスなんだけれどおかしく、ギリギリを攻めながらも枠に収まった、戦隊史上最高にヘンな作品『機界戦隊ゼンカイジャー』は幕を閉じました。
この作品が、『スーパー戦隊シリーズ』の歴史にどんな爪痕をのこしたのか。
それは、これからの作品を観なければ分かりません。
「なんか変なのがあったなー」とだけ言われるのか、あるいは「『ゼンカイジャー』があったからこそ、その後のシリーズが広がっていったのだ」と言われるのか。
さて、次なる戦隊は『暴太郎戦隊ドンブラザーズ』。
この作品、放送前からさまざまな要素が刺激たっぷりに宣伝されています。
ギアが出ます、黒いゼンカイザーが出ます、レジェンド井上敏樹さんが脚本を務めます、ドンブリーズではありませんetc……。
しかし、実のところ中身は全くわかりません。
コミカルになるの?シリアスになるの?暴太郎ってなに?脳人ってなに?ロボっぽいのが2体くらいいるけど、どういうこと?
それになにより、スーパー戦隊シリーズの枠に収まるの?
『ゼンカイジャー』の残した爪痕……もといステップから、次なる作品がどのような道を行くのでしょうか。
見えない未来に、不安と、それと劣らぬ期待が入り混じります。