ムソウノカキオキ

管理人の好きなこと(アニメ、特撮、オモチャetc)についてつらつらと語っていくブログです。色々遅いですが、よろしければコメントなどもお気軽にどうぞ

仮面ライダーゼロワンSS『デイブレイク前夜~Daybreak of Thouser~』

 デイブレイク前夜~Daybreak of Thouser~
 劇場版仮面ライダーゼロワンの公開が近いということもあり、本編の12年前に起こった出来事を二次創作として形にしてみました。
 本編で取りこぼされたあれやこれやを自分なりに形にできればなと思いまして……。

 前回のサイアクなゼロワン記事の直後に出せれば良かったですネ!(後悔)
 同内容をpixivに挙げているので、よろしければよろしくお願いします。(https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=14276932)


 デイブレイクタウン
 夜明けの町、と名付けられたこの町は、新型AIロボット『ヒューマギア』の運用実験都市だ。
 その町は、発展と栄華を極めていた。
 いや、誰よりもそれを享受していたのは、都市計画の中心となっていた企業『飛電インテリジェンス』だろう。
 しかし、優れたるモノとは同時に悪意を集めるものだ。
 そして、デイブレイクタウンはとある悪意によってデイブレイク=日常の崩壊を迎えることになる。
 これは、その崩壊の少し前に起こった出来事……。

 

 

 掃除が隅々まで行きとどいたフレンチレストランの店内に、優雅なクラシック音楽が響く。
 そんな洗練された空間の中で、私こと天津垓はビーフステーキにナイフを入れた。
 ステーキは拍子抜けするほど呆気なく刃を通す。
 私としては、海外で食べたような歯ごたえのあるステーキの方が好みなのだが……。
 そんな思いは、一口目を食べた瞬間に吹き飛ぶことになる。
 「ほう、これは……」
 ステーキは適度な柔らかさを保ちながらも、確かな歯ごたえがあった。
 しっかりとした肉の味わいに、ソースの味が引き立つ。
 次いで、グラスに注がれた赤ワインに口をつけた。
 口の中でワインの味わいと肉の旨み、その双方が引き立て合う。
 ステーキの肉、ソースの材料、そしてワイン。
 1つ1つが一級品でありながらもそのどれもが完全に調和していた。
 それはまさしく……
 「1000パーセント、一流の仕事ですね」
 この天津垓、プライドの高さには人の千倍自信があるが、どのような業種であれ真の一流に対しては素直に認める程度の柔軟さも持ち合わせている。
 同時に、後で店主と業務提携を提案しようと固く誓う。
 この店の味であれば、どこに出したとしても、良いビジネスになるはずだ。
 しかし、その1000パーセントの味わいも、同席する人間次第で753パーセントに落ちることもある。
 たとえば、今日のように。
 「しかし、飛電は実に不遜ですなァ!」
 店内のクラシックを台無しにするような酔漢の大声が響く。
 「実に不遜だ」
 そう言って、男は赤ワインを安酒のように一気飲みする。
 「■■社長、そのような飲み方をしているとワインがこぼれますよ?」
 私は、男を静かにたしなめた。
 「若造が。貴様に注意されるほど歳を喰っちゃおらんわい!」
 「……」
 確信した。この男は話すだけでこちらの知性が低下するタイプの人間だ。
 しかしこの男(仮に『赤ら顔の男』としておこう)をはじめ、今日の会食で同席している面々は、いずれも経済界の重鎮。
 今の時点の私であれ、軽々に本名を明かせないような、錚々たる経歴の持ち主ばかりである。
 「まぁまぁ。そんなわけですから、我々が今日こうして集まったわけではないですか」
 赤ら顔の男に、そう声をかけるのは穏やかそうな表情を浮かべた『髭の男』だ。
 「こちらの■■社長をはじめ、皆様は飛電インテリジェンスとそのAIロボットに痛い目を見せてやりたい、そうでしょう?」
 貸し切りの店内にいる10数名の客たちを、『髭の男』の目が鋭く値踏みする。
 「え、ええ。わが社の仕事は、デイブレイクタウンのせいでめっきり……」
 「わが社は、飛電のAIロボットの出現で株価が落ち込み気味です」
 「こちらは芸能部門がすっかり勢いを無くしてしまいまして。『なんでもAIができるなら、人間のタレントなどもう不要なのでは』と言いだす者まで出る始末でして」
 仮にも経済界の重鎮と呼ばれた者たちが、口々に弱気な言葉を並べる。
 唾棄すべき発言だ。
 変化する世の中に対して、誰もが既得権益が失われることばかりを嘆くばかり。
 誰一人として、新しいビジネスを展開するアイディアも意志も持たない。
 ヒューマギアの出現により、世の中は既に決定的に変わってしまったと言うのに。
 これでは、過去の経歴はともかく、未来の経済界を担う一流の企業人の態度とはとても言えまい。
 正直、仕事でなければこの席をすぐにでも立ちたいほどに不快な気分だった。
 (飛電是之助は、こんなことを一瞬たりとも考えないだろうに……)
 私は、ヒューマギア制御AIの設計・製造を請け負った際に飛電是之助に会った時のことを思い出した。
 (ヒューマギアによってヒトは労働から解き放たれ、自らの夢のために邁進することができるようになる)
 そう力強く語った彼には、新しい事業を展開する強い意志の力があった。
 実際、AI『アーク』の設計・製造を請け負った立場として詳細を把握したヒューマギアのAIはまさにそれを可能にするだけのポテンシャルを持っていた。
 それは、機械と言うよりも人間の脳を人工的に再現したものと呼んだ方が適切だった。
 犬型ロボット『ドッグギア』やライズフォンなど、飛電インテリジェンスの製品に搭載されたAIのまさに到達点。
 それだけに、惜しい。
 実に惜しい。
 このAIをヒトの進化のために使えば、ヒューマギアを超える社会の革新に繋がるだろうに。
 たとえば、この店のシェフの技量をラーニングさせたAIを量産し、『何らかの装置』で人間の脳に同期させれば、誰もが一流シェフになる。
 あるいは、人間の思考を1000パーセント高めることさえできる。
 それは、まさに神の領域だ。
 私は、彼にそのことを必死で訴えた。
 だが、私の正しさが聞き入れられることは無かった。
 (ヒト1人が力を高めるよりも、ずっと大切なことがある)
 それが、飛電是之助の主張だった。
 私には、決して理解できない主張だった。
 それを理解した瞬間、私の中の飛電是之助への憧れが、違うものへと反転した。
 同時に、確信をした。
 私こそが、飛電是之助に代わり、飛電インテリジェンスと言う一流企業を本来あるべき形に導く使命を帯びた人間なのだと。
 ……と、浸っている場合では無い。
 今は、この会合を乗り越えなければ。
 互いに親睦を深めるための会食、とはされているものの、実態は飛電インテリジェンスの事業拡大に反感を抱く人間の集まり。
 もっと言えば飛電を破滅させるための悪だくみの場だ。
 「しかし、どうすればあの飛電に打撃を与えることができるのか……」
 「スキャンダルくらいどうにかならんのかねぇ、TV局長!」
 「1つや2つのスキャンダルでどうにかなる状況じゃありませんよ。他企業どころか政府を味方につけてまで作ったデイブレイクタウンですから」
 「ただでさえ民衆は愚鈍で無関心ですからな。ヤツらを振り向かせるには、ドでかい花火が無ければ」
 「と、言うとAIロボットの運用に対する信頼性そのものを揺らがせるような事件が……?」
 「暴走」
 「それもロボットの1台や2台では足りない」
 「出来る限り大規模な」
 「そのためには、AIの制御系そのものをどうにかする必要があるのでは?」
 会話が展開していく。
 『髭の男』たちが会話の流れに巧みに干渉することで、彼らの、いや我々の望む流れが出来上がっていく。
 もっとも、”我々”がどこからどこまでのことを指すのか、私にさえ把握しきれていない。
 駆け引きに駆け引きを重ねた結果、もはや悪意の流れは誰にもわからない怪物となり果てていた。
 恐れ、怒り、憎しみ、妬み……
 この場所は、人間の悪意の縮図とも呼ぶべきありさまとなっていた。
 しかし、私はこうした悪意を否定するつもりはない。なぜなら……。
 「さて、ここにいらっしゃる天津垓社長はAIロボットの制御AIを開発された、ザイアジャパンの社長さんでいらっしゃる」
 『髭の男』の言葉に、重鎮たちの視線が私に集まる。
 「天津社長、なにか良いアイディアはございませんかな?」
 他の男が問いかける。
 「そういうことならハッキングだ!制御AIを狂わせてAIロボットどもを一斉に暴走させるんだ!」
 『赤ら顔の男』が叫ぶ。
 「そう単純な話でも無いでしょう。アクセスログに我々に繋がる情報が少しでも残ってしまっては面倒なことになりかねません」
 「ログデータぁなどいくらでも改ざんできる!あんなもの、いまどき裁判の証拠にすらならん!」
 「しかし、万一と言うこともあります。面倒な連中に嗅ぎつけられては厄介ですからな」
 まったく、血液が全てワインになった酔漢の戯言をまともに取り合ってあげるとは、TV局長たちはお優しいことだ。
 とはいえ、ここが口の開きどころか。
 「答えは明白。人間の悪性のみを学習(ラーニング)させれば良い」
 それは、今後の流れを決定づける一言だった。
 「と、言うと……?」
 「AIアークは今、学習の最中にあります。そのアークに対して、学習する情報に指向性を与えるための指示を、ほんの少し出せば良い。『人間をサポートするAIとして人間の心の本質、すなわち悪意を学ぶべし』とね」
 人間の本質は悪である。
 それは、あくまで一面的な見方でしかなく、人間であれば疑問を覚えるだろう。
 しかし、AIは違う。
 疑問を覚えられるほど人間と言うものをまだ理解していないのだ。
 「ラーニングを重ねたアークは、放っておけば”悪意のAI”として完成することでしょう。そして、”悪しき人間たち”に対して”しかるべき”アプローチを開始する。それは考えうる限り最悪の形になることでしょう」
 おそらく、数えきれないほどの人間が悲しむことになるだろう。
 しかし、それは必要な犠牲だ。
 この私が、飛電インテリジェンスを導く夢を叶えるために。
 「素晴らしい!」
 『赤ら顔の男』が叫んだ。
 「ラーニング!結構じゃないか。悪いのはAI!手を汚すのはAI!私たちは何もしなくて良い!AIさまさまだ!」
 「良いですね、手順としては真っ当なのが実に良い。動作を狂わせるハッキングをするよりも、ずっとリスクは低くなる」
 「その結果、どれほどの被害が出たとしても、それを被るのは飛電だけと言うわけですな」
 「ええ、我々はただ『学べ』と指示を出せば良い」
 重鎮たちに、私は笑みを浮かべて応じる。
 「我々の行いに違法行為など何一つないと言うわけですな」
 『髭の男』も満足げにうなずく。
 「そうなりますと、AIに指示を出さねばなりませんな。それもなるべく隠密に」
 「私の知り合いに飛電の社員がいます。彼らに手を回せば、そのための機会を作ることができるでしょう。なに、脅しつけるまでも無く……」
 「AI開発者のザイアジャパンの人間がいるのなら、面倒な根回しは最低限で済みそうですな」
 「それに向けて、マスコミの注目をデイブレイクタウンに集めねばなりませんな。局に特番を組ませましょう」
 それは、目に見えない悪意の流れが、1本の剣になっていくようだった。
 それからしばしのすり合わせの末、のちにデイブレイクと呼ばれる凶事の画が描かれた。
 「さてみなさん」
 私は、たっぷりと間を置いて、全体の視線を引き付けた。
 「飛電の追い落としのためにも、ザイアエンタープライズジャパンではヒューマギアを凌駕する新たなAIを開発しています。それに当たりまして、皆様に有形無形の援助を―――お願いいたします」
 そう言って、私は具体的な要望をそれぞれに提示していく。
 なかには、会社が傾きかねないようなものもあった。
 「ハッハッハ!冗談はよしたまえ、天津くん!こんな条件を聞き入れられるわけ無いだろう!」
 赤ら顔の男が無遠慮に私の肩を叩く。
 せっかくの白スーツが汚れてしまった。
 「聞き入れられずとも、嫌とは申しますまい?」
 そう言って、私は懐にしまっていたライズフォンをテーブルの上に置く。
 私が自らカスタマイズしたライズフォンの録音機能は実に優秀だ。
 長時間にわたる会話を、どんな小さな話声までも録音できる。
 もちろん、今回も同様だった。
 『悪いのはAI!手を汚すのはAI!』
 ライズフォンの再生音声に、『赤ら顔の男』の顔が蒼白になる。
 「ライズフォンを1回タップするだけで、この会合の音声をネット上にアップロードすることができます。それを望む方はいらっしゃらないでしょう?」
 「それはザイアも同じだろう!だいたい音声データなど……」
 「ところでザイアジャパンの顧問弁護士は実に優秀でして。わが社の損害を避け、なおかつ電子データを証拠として立証できるくらいには」
 「き、貴様……!?」
 『赤ら顔の男』の表情が憎しみに染まる。
 「ああ、ここで私からフォンを奪っても無駄です。このデータは複数のクラウドにバックアップされていますし、私の帰りがあまりに遅いようですと、その管理権限を持つ秘書が……」
 「まぁまぁ、社長。子供のような駄々はそれくらいにしましょう。そんなデータが無くとも、今回一番の功労者である天津社長に援助を惜しむ者などこの場にいない。そうでしょう?」
 『髭の男』の言葉に、皆が一様にうなずく。
 「ぐ……!」
 「ありがとうございます」
 『赤ら顔の男』の悔しげな顔を無視し、私はほほ笑んだ。
 人間の悪意は醜い。
 しかし、私はそれを否定するつもりは無い。
 なぜなら悪意の中にこそ、ビジネスチャンスが数えきれないほど存在するのだから。