1971年に放送された初代『仮面ライダー』(以下旧作)を元に作られた映画作品、『シン・仮面ライダー』の感想をば。
現在上映中の映画に関するネタバレを多数含むため、未見の方はご遠慮ください。
全体的な雰囲気は『シン・ウルトラマン』をさらに洗練させた感じ。
概ね登場怪人ごとに章立てされたような形式や、旧作BGMのアレンジなどは健在です。
そこからさらに一歩踏み込んで、変身前後で同じ役者さんが演じる荒々しいアクション、旧作の構図をリスペクトした映像が作られています。
現代の映画でありながら、レトロ。
自分が観ているのは旧『仮面ライダー』か?『シン・仮面ライダー』か?と混乱しそうになるほど。
一方で、庵野監督らしいアニメ的な外連味のあるシーンもあり、さながら昭和と令和の映像がせめぎ合っているかのような、独特の雰囲気がありました。
設定面では、旧作を踏まえつつも現代的。
ライダースーツのリアルな造型も相まって、本作のショッカーはひょっとするとこの現代に実在し得るのでは?とさえ思わせます。
一方で、変えるところはガラリと変えて居たりもします。
さらには歴代の仮面ライダーシリーズや石ノ森章太郎作品のオマージュが巧みに織り交ぜられているのは、さすがプロのオタクである庵野秀明監督!と快哉を挙げそうでした。
なんかもう、自分の中の三歳児が呼び起こされる思いでした。
本作の主人公と言えるのは3人。
・本郷猛
言わずと知れた仮面ライダー。
コミュ障と紹介され、実際そうした面もあるものの、ルリ子さんと辛抱強く向き合うなど、対人能力そのものは決して低くない印象。
本作では、ルリ子のナイト的な面もありつつ、その隣人愛を幅広く発揮することのできる人物として描かれています。
苦悩する場面はあるものの、自分でしっかりと決断できる強さもある。
なんだかんだで、ちゃんとした大人なので安心感をもって見れる主人公でした。
憂いを帯びながらも根が頑固、とサイボーグ009をはじめとする石ノ森ヒーローの系譜を色濃く受け継いだような主人公です
・緑川ルリ子
自己主張が薄め(でも頑固)な猛に代わって物語を進める、もう一人の主人公。
物語が最終的に緑川家の話に集約されたりと、非常に重要な人物。
組織で生み出された生体電算機、と言う設定を爆速で開示してくれます。
『エヴァンゲリオン』の綾波レイの匂いがするかな?と思いきや、感情豊かで家族との関係性もあったり、より生身の人間という趣が強いです。
綾波レイが一見無機質に見えてその実生身の人間だった、と言う描かれ方をされてから二十年以上、今や綾波レイ(的な人)は生身の人間だとみんな知っている、という変化が感じられなくも無かったり。
衝撃的な行く末を辿るわけですが、これは旧作ではあっさり目にフェードアウトしてしまったルリ子に見せ場をあげたい、というスタッフの思いがあったのかなと思ったり。
・一文字隼人
仮面ライダー第二号。
主人公の多い本作にあって、一歩引いた立ち位置にはあります。
バックボーンの描写もバッサリカットされてますしね。
それでありながらも、漫画的一歩手前な濃いキャラを発揮し、猛のピンチには颯爽と助けに現れる姿はまさに”二号”ライダー。
物語上の立ち位置の絶妙な存在感に感心することしきり。
明朗なキャラクターもあって、かなりの人気を得たキャラクターのようです。
この作品、不思議と印象に残ったのは、ライダーが仮面を取ると、すごく、すご~~~~く普通の人の顔がでてくるな!と言う事。
たとえば、アイアンマンがマスクを外すと、そこにはお洒落で格好良いハリウッドスターの顔があります。(バットマンでもキャプテンアメリカでも、仮面ライダータイクーンでもキングオージャーでも可)
それが今回、マスクを外した仮面ライダーは、無精ひげを生やし、髪の毛にワックスもかけていない、すぐ隣に居そうないでたちの男の人。(池松壮亮さん、江本裕さん、ゴメンナサイ!)
そんな普通の人たちが、普通の人として会話する、と言う場面が多く観られます。むしろ、それしか無いくらいかも?
その結果、首から下のライダースーツに違和感さえ覚えそう、シュール一歩手前なくらい。(苦笑)
個人的には、コレはかなり狙ってやった結果なんじゃないかと思います。
池松さんも江本さんも、『シン・仮面ライダー』を離れると格好良い方ですし。
本作の仮面ライダーや怪人(オーグ)は、手の届かないような違う世界の存在ではなく、本当に等身大、を通り越して、私たちのすぐ隣に存在しているような、ごくごく普通の人間として描こうとしたのではないか、と。
実際、ライダーとオーグが背負う背景は、現実にあるかもしれない出来事。
キミがもしも絶望に打ちひしがれ、ショッカーのような力の誘惑が現れた時、抗うことができるかい?
そう問いかけられているようにも見えます。
……それはそれとして、本作には美形キャラだな!と感じるキャストもいるのですけれども。(苦笑)
心が三歳児になるようなアクションから、不器用な大人のドラマまで詰め込まれた、素敵な作品でした。