今回は、乖離編の台風の目、あるいは主人公とも言うべきデザスターに指名されていた仮面ライダーナーゴ=鞍馬祢音に関する考察を少し纏めてみようと思います。
有名配信者しての顔を持つ祢音は、町行く人に声をかけられて、にこやかに対応する姿が度々描かれてきました。
神対応、と言うヤツですね。
親の躾が行き届いているのが感じられます。
しかしながら、それがファンで無い相手であればつっけんどんな振る舞いもしますし、敵か味方かも分からないオーディエンスのカメラに初めて対応した時には戸惑いを見せていました。
これは、祢音が、相手が敵か味方かを判断してから応対を変えているから、と解釈するのは突飛では無いでしょう。
ベンとジョンに頼みごとをするときに、まず誰の味方かを問いかけていることからも伺えます。
言うまでも無く、ベンとジョンは祢音にとって最も身近なボディガード。自分を守ることを仕事とする相手に、自分の味方では無い可能性を問う、ということからも、祢音と言う人物が敵味方の判断を必要としている環境で暮らしていることが伺えます。
祢音のこうした心理は、家庭環境による部分が大きいことが読み取れます。
祢音の父、光聖は家族からの話であっても、自分にとって得がある話で無ければマトモに取り合わないことさえある人物。
母、伊瑠美は敵対的な行動を取れば暴力に訴えかける人物。
祢音に対する愛情がいかばかりであるにせよ*1、少なくとも理想的な両親とはかけ離れた人物と言えます。
そうした両親に対し、祢音は幼い頃から敵対しないように、と必死に考えながら生きてきた、と推測できます。
祢音にとって複雑だったのが、両親が大財閥の関係者であったこと。
一般家庭よりも、祢音に対する両親の影響力は絶大だったものと思われます。
交友関係を制限されてきた、と言う話からもそれが伺えます。
どれほど金銭的に恵まれていても、鞍馬家での生活は祢音に対して強いストレスのかかるものであったと考えられます。
もしかすると、鞍馬家とは関係のない自分として他人から接して欲しくて、あるいは鞍馬家からの逃げ場として、動画配信を始めたのかもしれません。
ここで、話をデザイアグランプリに移しましょう。
デザイアグランプリには、デザイアカードに叶えて欲しい願いを記す。
カードに書く内容に、グランプリに何度も参加している者とそうで無い者には大きな違いが生まれています。
デザイアグランプリ初心者は、願いそのものをカードに書く。
一方、経験者は自分の願いを叶えるための、具体的な手段を書いています。
『世界平和』と言う抽象的な内容から『消滅者の復活』と言う具体的な形に変化した桜井景和が分かりやすいですね。*2
浮世英寿に至っては、願いを叶える力を試すために、デザイアカードを使っている節さえあります。
乖離編に登場した他の参加者も、ゲームに勝ち残って、『全人類の記憶』を得て『自らの知識欲を満たしたい』と願う五十鈴大智、『衰えない身体能力』を得て『家族を守りたい』我那覇冴と言う面々。
知ってか知らずか、みな願いを叶えるための手段を記しています。
これは、自分の願いが具体的になっているということであり、さらに言えばあくまで手段であるため、ゲームに負けたとしても願う気持ちが失われず、その願いのための再起が可能であるというメリットがあります。
ただ一人、いまだに『本当の愛』と言う願いそのものしかデザイアカードに記すことのできない仮面ライダーナーゴ、鞍馬祢音を除いて。
これは、祢音がデザスターに指名されたことで、致命的な危機を招くことになりました。
『きみの理想の世界が永遠に叶うことは無い』と言うペナルティを背負ったデザスター。
つまり、デザスターとして敗北することは、祢音が何よりも欲している、本当の愛を得られないことを示しています。
ほかの参加者であれば、次は別の『理想の世界』を願うことで再起することができますが、祢音にはそれができないのです。
そもそも祢音は、自身が望む『本当の愛』がどのような形なのか、本当に見えているのでしょうか?
何よりも欲しながらもその形が見えていない、いえその事実から頑なに目を逸らしているようにも見えます。
これまでの描写から、親の愛を実感すること、と取れますが、両親の性格から、それが難しいのも事実。
それこそ、デザイアグランプリと言う奇跡にでも頼らなければ。
しかし、そのデザイアグランプリにも懸念事項はあります。
『本当の愛』と言う祢音の抽象的な願いが叶えられたとして、それが本当に彼女の望む愛の形なのかは分からないこと。
叶えたのは祢音では無く、創世の女神と言う他人?なのですから。
さらに言えば、祢音が叶えた願いが不都合であると両親が見なした場合、スポンサー特権でデザイアグランプリに介入、取り消しを要求することもあり得ないとは言い切れません。
彼女の賭けるデザイアグランプリの奇跡とは、あまりにも不確定で不安定なものに見えます。
では、祢音が願いを叶えるためにはどうすれば良いのか。
必要なことが、少なくともおそらく二つあります。
一つは、『本当の愛』の具体的な形を、祢音自身が見定めること。
もう一つは、両親に立ち向かい、自分の気持ちを伝えること。
「逃げてるだけじゃ、本当の愛は手に入らない」
冴がかけた言葉は、真実をついているように思えます。
どうあれ、”愛を与えぬ両親”*3呪縛から解き放たれないことには、鞍馬祢音の人生は前には進まないのでしょう。
それは、奇跡に賭けてもなお足りない、厳しい道行きのようです。
彼女の行く末を、今後も見届けていきたいと思います。