祭のような一年を駆け抜けた『暴太郎戦隊ドンブラザーズ』が遂に最終回。
この実にデコボコで愛すべき作品の魅力を、自分なりに言葉にしてみようと思います。
正直、『ドンブラザーズ』は完璧な作品とは言えないでしょう。
多くの謎は謎のままだし、せっかくの新しい設定の数々が生かしきれたかは首を傾げるし、戦いは終わっていないし、最後の敵に専用スーツが無いのはやっぱり寂しい。
それでも、アクションの魅力、キャラクターの魅力、ドラマの魅力―――それもそれぞれが突き抜けたシロモノで最後まで駆け抜けた稀有な作品でした。
『ドンブラザーズ』の世界は厳しい。
現実以上にクセの強い人間ばかりだし、容易くヒトツ鬼になれてしまうし、そうなれば消去しようと脳人がやって来ます。
さらには危険な獣人まで現れる。(花村少年はどうなったのだろう?)
けれども、そんな彼らを助けるヒーローがいる。
いや、どれほどひねくれていても、ヒーローになれる。
愛すべき変人集団、暴太郎戦隊ドンブラザーズに。
こうしたヒーローの在り方を描き切っただけでも、この作品はもう勝ちだと言って良いでしょう。
彼らは兎角人間らしいので、それも飛び切り面倒臭い人間らしいので、そう簡単に団結してはくれません。
何度となく怪人になるメンバーまでいる。(だから好きなんですけどね、雉野つよし)
リーダーである桃井タロウからして、欠点が無いという欠点の所為で人付き合いが不得手と言う難儀な性質を抱えています。
そんな面倒くさい連中が、少しずつ交流したりしなかったりして、一つのチームになっていき、ついには敵である脳人やドンムラサメまで仲間になるに至る。
敵幹部全員が、やられるどころか仲間になるというのは前代未聞では無いでしょうか。*1
アイテム展開としては変身アイテムのアバタロウギアをメインに展開。
アイテムがほぼ完全に魅力的な歴代ヒーローメインとしたコレクションアイテムに振ったのは、番組中で大きく扱わなくても問題がない、と言う判断に見えます。(この辺りは、ジャンルの近いウルトラマンシリーズでの実績が関係しているのではと見るのだがどうでしょう)
アイテムが目立つのは戦闘シーンに限られ、ドラマがアイテムに引っ張られる場面は、少なかったようです。
お陰で制作陣がドラマに全力を尽くせたのは良いことですが、オモチャ好きとしてはアイテムが絡まないと少し寂しくもあります。
しかし、活躍シーンは短くとも印象に残るので、地味な印象はありませんでした。
自分も玩具を買うくらいには。
制作サイドに目を向けると、東映プロデューサーに白倉伸一郎氏、パイロット監督に田崎竜太氏、そして脚本に井上敏樹大先生……と、90年代戦隊に携わり、平成仮面ライダーシリーズを立ち上げた、まさにベテラン中のベテラン。
特に井上大先生は、ニチアサの第一線からは退かれたのではないかと思われていた中で、*2殆どの話数を担当される大偉業を達成。
ストーリーは、破天荒な展開を見せつつも、かつての平成ライダーシリーズと比べると観やすく感じられました。
わからないこと、驚いたことなどを、主要人物が視聴者に代わって表現してくれるので、自然とそちらに視点を置いて楽しめる構成になっています。
コメディの文法を上手く使っていたこともあるのでしょう。
一方で、人間関係の変化に重点を置かれながらも、分かりやすいイベントを挟まず、メンバー同士の少しずつ関係性が変化していく流れをしっかりと描き切っていまs。
こうした脚本の面白さを、何度となく一緒に仕事をして気心が知れたスタッフ一同が見事にすくい上げ、形にしたのが素晴らしい。
まさに、ベテランの底力が感じられた一年でした。
そんな”レジェンド”の『ドンブラザーズ』のバトンを受けて放送されるのは『王様戦隊キングオージャー』。
予告からヒーロー以上に、変身する”王様”たちの個性を強調する本作がどうなっていくか、注目していきたいと思います。