ムソウノカキオキ

管理人の好きなこと(アニメ、特撮、オモチャetc)についてつらつらと語っていくブログです。色々遅いですが、よろしければコメントなどもお気軽にどうぞ

オレタチのさよなら~仮面ライダーゼロワン二次創作~

 と、言うわけで『仮面ライダーゼロワン』のSSを公開しちゃうことにしました。

 劇場版『仮面ライダーゼロワンrealxtime』の後日譚的なモノ。

 なので、劇場版のネタバレにご注意ください。

 ……実は、長編で一本書こうと思ってたのが、全く完成する気配が無いのでその中のアイディアの1つをまとめましたというアレげな事実があったり無かったり(苦笑)

 例によってpixivにもあげているので、よろしければよろしくお願いします。(

https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=14599059

 

 東京・銀座エリア
 多くのアパレルショップが軒を連ねる地域である。
 近年でも数多くのハイブランドが次々と店を出しており、互いに切磋琢磨している。
 景観のみならず、行き交う人々の服装もハイセンス。
 この国では最もおしゃれな街、と言う呼び名は今なお健在だ。
 今日も店先には華やかに着飾った人々や、店で働いているこれまた洒落た装いのヒューマギア達が……
 悲鳴を上げた。
 「醜い人類は滅亡セヨオオオオオオ!」
 「ヒューマギアなど潰れてしまえエエエエ!」
 変わる。
 変わる。
 ヒューマギアが変わる。
 人間が変わる。
 ヒューマギアはアークマギアに。
 人間たちはバトルレイダーに。
 いずれも、まるで悪意が形を得たかのように歪な姿だった。
 「スクラップになれ、この鉄くずどもがァ!」
 バトルレイダーたちが機関銃『トリデンタ』を掃射する。
 「滅亡セヨ、人類イイイイ!」
 ベローサタイプのアークマギアが、腕の鎌からエネルギーを放つ。
 美しい街並みが傷つき、燃える。
 人々は、悲鳴を上げて逃げまどい、暴走していないヒューマギアはどうすればいいのか分からず立ち尽くすばかり。
 人々の笑顔で満ちていた銀座エリアは、悲鳴と悲しみで満ち満ちる。
 そこへ、
 『ジャンプ!』
 電子音声が響く。
 「変身!」
 蛍光色のスニーカーがアスファルトを蹴った。
 「や、め、ろおおおおお!」
 『飛び上がライズ!ライジングホッパー!The jump to the sky turns into rider kick.』
 飛電或人が変身した仮面ライダーゼロワンが、破壊の渦へと跳びこんだ。

 

 

 アークとの戦い、そしてアークワンとしての戦いに決着をつけた。
 シンクネットのテロを喰いとめた。
 けれど、世界は平和になんてならなかった。
 それは、仕方のないことなのかもしれない。
 俺は、飛電或人は、戦いを通して、悪意が乗り越えられることを証明した。
 けれども同時に、その道のりは困難であることもまた、証明してしまった。
 そう、1人1人が自分達の手で悪意を乗り越えなければならない。
 それは、困難で、時間がかかり、そして多くの犠牲が出るかもしれない道だ。
 犠牲。
 ソレを、俺は決して忘れることは無いだろう。
 これは、そんな世界で、俺たちがひとつのさよならを告げる物語だ。

――――――仮面ライダーゼロワン 『オレタチのさよなら』

 

 

 『ブレードライズ!』
 『プログライズホッパーブレード!』
 仮面ライダーゼロワンとなった或人は、アタッシュカリバーとプログライズホッパーブレードの2本の剣を構え、銀座エリアを走る。
 「はぁ!」
 眼前に迫るアークマギアに向かってホッパーブレードを振るうと、倒れたマギアから悪意の鎧がはがれ、元のヒューマギアへと戻る。一先ずは。
 ふと道に目をやると、攻撃で黒こげになったバッグが落ちていた。
 誰かのプレゼントか、自分へのご褒美か、あるいはそうなる予定だった商品か……
 争いによって奪われたものを思い、或人の胸が痛んだ。
 「……って、そんなこと考えてる場合じゃないよな」
 或人は前へと向き直り、剣のトリガーを引く。
 『フィニッシュライズ!』
 ブレードから飛電メタルの斬撃を放ち、争い合うマギアとレイダーたちに向かってたたき込む。
 『プログライジングストラッシュ!』
 一部のマギアやレイダーの変身が解け、地面へと倒れる。
 しかし、攻撃を逃れた者たちが一斉に或人の方を睨む。
 「なんでこんなことに……!」
 かつて、チップとして不破諫の中にいた亡が配布していたレイドライザー。
 その一つが悪意ある者によって違法に複製、生産され、世間にバラまかれている。
 それが与多垣ウィリアムスンたちザイアエンタープライズの主張だった。
 それが真実か、はたまたその裏にさらなる悪意が潜んでいるのか、それを或人が知る由もない。
 「戦いを止めてください!こんな素敵な街を傷つけてどうしようって言うんですか!」
 レイダーの1人に近づき、或人は訴えた。
 「街を傷つけているのはヒューマギアの方だ!」
 「奴らは銀座を、ファッションの伝統を壊そうとしている!」
 レイダーたちが口々に叫んだ。
 それを聞いて、或人は変身解除されたヒューマギア達が、いずれも同じユニフォームを着ている事に気がついた。
 『1$(ワンダラー)』と言うブランドの直営店のものだ。
 飛電インテリジェンスの得意先の1つだ。
 或人は以前、この店のオーナーと一度会ったことがあった。
 良い夢を持った女性だった。
 (つまり、私が作りたいのは人間とAIの共作であり競作なんです!)
 或人の脳裏に、オーナーの言葉が思いだされた。
 「メメメ滅亡セヨ」
 「滅亡セヨ」
 「人類ハ滅亡セヨ」
 「「「「「「おーなーヲ傷ツケタ、醜イ人類ハ悉ク滅亡セヨ」」」」」」
 アークマギアたちが声をそろえた。
 彼らの姿に、或人の胸が痛んだ。
 レイダーにも、マギアも、いずれも根底にあるのは愛だ。
 レイダーに変身してしまった人々には、街やファッションへの愛。
 マギアに変身してしまったヒューマギアにや、オーナーや店への愛。
 (それが、こんな惨劇を引き起こしてしまうなんて……!)
 やりきれない思いが、或人の胸をえぐる。
 だから、気がつかなかった。
 後ろから或人を狙うレイダーたちに。
 『インベイディングポライド』
 いくつものトリデンタが最大出力を迎え、エネルギー弾を放つ。
 放たれた弾丸が束になり、全てを飲み込むエネルギーの奔流と化す。
 その時!
 「或人社長!」
 『Road to glory has to lead to growin' path to change one to two! 仮面ライダーゼロツー!It's never over!』
 イズの変身した仮面ライダーゼロツーが、敵の攻撃を切り裂いた。

 

 

 「イズ、なんで!?」
 「或人社長お1人では難しい状況だと判断しました」
 「そんなこと……」
 と反論を口に出そうとして、イズの言うとおりだということに気がつく。
 現に今、イズに助けられなかったらどうなっていたことか。
 「いや、助かった」
 だから、そう言葉をかけた。
 「でも、無茶だけはしないで!」
 しかし、こうも続けた。
 思わず、声が高くなってしまうのを感じた。
 まるで悲鳴のように。
 何しろ、一瞬とはいえイズが敵の必殺技の前に身をさらしたのだから。
 以前に比べればイズが戦うことを容認できたとはいえ、”かつてのイズ”の最期を思い出さずにはいられない。
 「承知いたしました」
 イズはそう答えて、或人の背中に回った。
 「現在、A.I.M.Sは別の地域での暴動に対応中との入電が入っております」
 「それじゃ、俺たちだけで何とかしよう!」
 「はい」
 2人は眼前に迫るマギアとレイダー達へと向き直る。
 「「お前を止めらるのはただ1人、俺/私達だ!」
 言って、互いに背中を預け合い、2人は敵へと駆けだした。

 

 

 「無茶だけはしないで、ですか……」
 敵を無力化しながら、イズは呟いた。
 そこには何一つ意味は無い、はずだ。
 自分は恵まれている、とイズは認識していた。
 仕えている或人からは間違いなく大切にされている。
 イズと言う名前も或人からもらった物だし、『かつてのイズ』と言う大きな指標と、ソレに関する知識もラーニングさせてもらった。
 かつてのイズからは、彼女の記憶データを託された。(厳密には、かつてのイズそのものではなく、衛星ゼアに記録されたデータなのだろう、とイズは推測していた)
 その結果、イズはシンギュラリティを迎え、或人と共に心から笑いたいと言う夢を持った。
 しかし、いや、だからこそイズは最近1つの命題に着いて思考を働かせることが多くなった。
 ”自分”とは一体何なのか?
 (私は、”かつてのイズ”と同様のデータと、ヒューマギア共通素体で構成されています)
 戦場を効率的に跳び回り、ある者には強力な蹴りを、あるいは拳を振るいながら、いつものようにイズは思考する。
 (であれば、私は”かつてのイズ”と同じ存在なのでしょうか?)
 イズが敵を無力化する順番には基準があった。
 或人に危険な攻撃が向かう可能性の高い者が優先だった。
 同様に、或人もイズに攻撃が向かう可能性の高い相手から倒しているように見えた。
 それは、互いに守り合っている……と呼ぶには歪な姿だった。
 2人は知っていた。
 自分達がどれほど強力な仮面ライダーであっても、救えない者は救えないし、破壊される時は破壊されるのだと言うことを。
 (自己の連続性。それを物理的に証明することは難しい)
 或人を守りながら、イズは思考を続ける。
 (かつてのイズは間違いなく最期を迎えました。私自身、彼女に関するデータは記録としてしか知らない)
 彼女、と思考の中でイズは呼んでいた。
 ”かつてのイズ”を、イズは自分と同一存在とは思えなかったのだ。
 (それでも、”イズ”はココにいます。或人社長がイズと呼ぶ限り、ココにいます)
 『イズ』、『イズ』、『イズ』、『イズ』……
 戦いながら、イズは記録の中から或人の声を呼び出していた。
 或人がイズのことを呼ぶ声を。
 (嗚呼、何度比較・分析をしても、”かつてのイズ”を呼ぶ声と何一つ変わらない)
 それは、ただの事実でしか無かったはずだった。
 しかし、その事実が形の無いノイズとして、イズの思考に刻まれる。
 「イズのノイズは相変わらず、或人じゃないとー」
 そう呟いても、或人のギャグを聞いた時のような反応は、イズの中に生まれない。
 心の底から笑いたい、その望みが果たされる日が来るのだろうか?
 (この思考は、優先度が低いもの、ですね)
 戦いの中、イズは考えを切り替えようとする。
 「人間は、死んでしまえば代替不可能なのですから」
 思考を振り切るように、声に出した。
 発声することで、その意味する重みを再認識できるからだ。
 ―――しかし、皮肉なことに、そうした時に限って死神は現れる。
 「畜生、畜生、畜生!なんでどいつもこいつも俺の邪魔をしやがる!」
 混戦の中、バトルレイダーの1人が叫んでいだ。
 「こうなったら、なんでも使ってやる!この『悪意のキー』とやらも!!」
 バトルレイダーの手に、赤黒く光るキーが握られていた。
 「申し訳ありません、或人社長。警戒が不足していました。」
 イズは目の前のレイダーを最大の脅威と設定し直した。
 「いや、イズのせいじゃない」
 そのレイダーの手に握られたキーは、或人にとって最も因縁があると言って過言ではないモノ。
 「俺もまさか、今日のコトにアズがちょっかい出してたなんて思いもよらなかったから……」
 『アークワン』
 アークワンプログライズキー!
 「実、装おおおおおお!」
 「止めろ!」
 或人が叫ぶが、乱戦の中でレイダーを止めることはできなかった。
 『レイドライズ』
 電子音声が鳴り響く。
 瞬間、レイダーのライザーから、いや、そこに装填されたアークワンプログライズキーから悪意の波動『スパイトネガ』がドス黒いタールのように湧き出ていく。
 「ぜ、ん、ぶ、消えろおおおおおおお!」
 アークのエネルギーが、周囲を呑みこんでいく。
 それはマギアもレイダーも関係なく蝕もうとしていた。
 「イズ!」
 「はい!」
 2人は跳び回り、他の者たちをスパイトネガの沼から安全圏に誘導していく。
 「俺たちの街が……」
 イズの救った男が呟いた。
 『コンクルージョン・ワン』
 悪意の中で実装を終えたレイダーは、歪に変身していた。
 体の各部には白骨のような装甲が出鱈目に配置され、四肢は肥大化。
 さらに尾まで追加され、全身の重さからか前傾姿勢を取っている。
 最早バトルレイダーではなく、アークレイダーとでも言うべき姿であった。
 「まるで怪獣じゃないか……」
 或人が呟いた。
 「俺を馬鹿にしたかああああああ!」
 アークレイダーの頭部が輝き、スパイトネガが光線と化して或人に向かって迫る。
 「クッ!」
 それをすんでの所で避ける或人。
 或人の無事を確認し、イズは内心で安堵した。
 「もう止めろ!アンタの愛した街を、これ以上傷つけるな!」
 或人は煉瓦造りのビルやレトロな電柱を跳び、アークレイダーへと近づいて行く。
 足元には依然として黒いエネルギーが充満していく。
 「愛した?ああ、愛したよ!だからこそ、俺の手でぶっこわあああああああああす!」
 スパイトネガがレイダーの爪先に集中。
 
 巨大な槍と化したソレを、或人に向かって投げつける。
 「ぐあ!」
 すんでの所で避けたかにみえた槍は、或人の腕を確かにえぐっていた。
 「或人社長!」
 「まだ大丈夫!」
 イズもまた、ビルを跳び、或人と合流した。
 「社長だぁ!?俺だって社長なんだよ!この銀座エリア一番のな!それを1$も、お前らもおおおおおお!」
 錯乱。
 そうとしか言えない状態にありながら、アークレイダーは全身から悪意の槍を次々と射出する。
 壊 滅 絶 亡
 「回避行動を開始します」
 「フ!は!この!」
 イズと或人は、ビル街を縦横無尽に跳躍、これを避けていく。
 「これでは、こちらの攻撃を当てる間もありません」
 「だったらこれで!」
 『ハイブリッドライズ!シャイニングアサルトホッパー!No chance of surviving this shot.』
 或人はゼロワン シャイニングアサルトホッパーに変身して、青い光弾―――シャインシステムを展開。
 『バスターダスト!』
 「いっけえええ!」
 同時に、大型銃『オーソライズバスター』を発射する。
 「スポットライトのつもりかああああああ!」
 
 しかし、アークレイダーの光線が、或人の攻撃を次々とかき消していく。
 「やはり、至近距離から強力な攻撃を与えるしか無いようです」
 「でも足元がコレじゃなぁ……」
 或人の言葉に、イズは足元の成分を分析、ゼロツーキーの力を借りて作戦を立案する。
 「或人社長、飛電メタルを足場にするのはいかがでしょう?」
 努めて普段通りの声音で、イズは提案した。
 「いけるの?」
 「確証はありません。しかし、試してみる価値はあります」
 「オッケー!」
 或人は躊躇うことなくメタルクラスタホッパーキーを構えた。
 『Everybodyジャンプ!』
 「してるしてる!」
 軽口をたたきながら、或人はベルトのキーを交換する。
 『メタルライズ!Secret material hiden metal メタルクラスタホッパー!It's high quality』
 「はぁ!」
 ゼロワンドライバーの電子音声をバックに、或人はレイダーの直上へと跳躍、プログライズホッパーブレードを掲げた。
 「やらせるかよおおおお!」
 恐 憤 怒 憎 絶 闘
 次々に迫る悪意の槍を避け、或人は必殺技を放つ。
 『ファイナルライズ!ファイナルストラッシュ』
 或人が剣を振るうと飛電メタルの斬撃『クラスターセル』が広範囲に降り注ぐ。
 「こけおどしがあああ!」
 アークレイダーは咆哮と共にファイナルストラッシュを迎撃にかかる。
 「本命はこちらです」
 飛電メタルで作り出された足場へと着地するイズ。
 そして、ゼロツーの脚力を活かし、瞬く間にアークレイダーの眼前へと接近する。
 「よっと!」
 或人も敵の真後ろに着地。
 2人は同時にベルトを操作した。
 『メタルライジングインパクト!』
 『ゼロツービッグバン!』
 完全にタイミングの合った二撃の蹴りが、前後からアークレイダーにたたき込まれる。
 強力な攻撃を受け、アークレイダーの白い装甲にヒビが入る。
 「やったか!」
 しかし、
 「ク、ソ、がああああああああ!」
 それでもなお、アークレイダーは動いていた。
 『パーフェクトポライド』
 
 アークレイダーの腕がさらに肥大化。
 眼前のイズに向かって振るわれる。
 イズは動けない。
 動いても避けられないことを、イズの人工知能が瞬く間に判断したからだ。
 (私は、ココで最期を迎えるのですね)
 不思議と、苦しみは無かった。
 その意味はすぐに思考される。
 (嗚呼、これで良いんですね。だって、”イズ”がいる限り、或人さまが悲しむことは無いのですから)
 或人は、いずれまた新たなイズを作るだろう。
 ”イズ”達のデータをラーニングさせた新たなヒューマギアを。
 それは、自分とは異なる存在。
 それでも、自分と同じ名の誰かが、或人の隣からいなくなることは無いだろう。
 或人の悲しみを、癒し続けるだろう。
 それは大きな救いであるように感じられた。
 たとえ、今のイズにとってはあまりにも寂しすぎると感じられたとしても。
 しかし、
 「逃、げ、ろ、イズうううううううう!」
 アークレイダーの必殺技は襲ってこない。
 ゼロワン メタルクラスタホッパーから離れた鋼の飛蝗―――クラスターセルがレイダーに張り付いて防いでいたのだ、と思考する前にイズは或人の指示に従っていた。
 咄嗟に後方へ跳躍すると、ゼロツーの機動力はアークレイダーのはるか後方へとイズを退避させる。
 「邪魔だテメえええええええええええええ!」
 怒りのままに、後ろにいる或人へと爪を振るうアークレイダー。
 「ああああああああああああああ!」
 『アルティメットストラッシュ!』
 或人もまた必殺技を放つ。
 双方の必殺技がぶつかり合い、街全体を巻き込むほどの爆発が起こった。
 「或人さま!」
 イズの叫びは、爆音へとかき消された。

 

 

 そのとき、或人は全身の飛電メタルをほとんどすべて、イズを守るために使っていた。
 装甲を失ったゼロワン メタルクラスタホッパーは丸裸と呼んでも良い。
 だから、
 (あー、死んだ)
 と、さすがの或人も今回ばかりは確信した。
 ブレード越しに必殺技が炸裂したとき、悪意の爪が或人を襲った。
 全身をバラバラに吹き飛ばすほどの衝撃。
 魂までも焼き尽くさんとする熱。
 痛覚がおかしくなりそうなほどの痛みには、数多の戦いの中で、もう慣れていた。
 しかし、それでも。
 (悪意、これだけは無理だ)
 攻撃に込められた感情だけは慣れない。
 AIによる機械的な攻撃なら、いい。
 動物の本能による防衛行動ならまだ、いい。
 それでも人間の悪意には、とても慣れることができない。
 自分を傷つけ、自分を否定しようとする感情を向けられる。
 それ自体が或人の心を一番深く傷つけていた。
 そして、自分の心にもそれがあると言う現実が。
 (みんなを守れて、イズを守れた。それはすっごく嬉しい)
 朦朧としていく意識の中で、或人は述懐する。
 (けど、この死に方は、ちょっと、イヤだなぁ……)
 そんなことを考える自分を、少しだけ意外に思いながら、或人は意識を手放した。

 


 「あれ……?」
 或人が次に見たのは、白い天井だった。
 「俺、なんで……」
 ポツリ、と呟く。
 それが限界だった。
 なにしろ、体が全く動かないのだから。
 「ふ、副社長!社長が目を覚まされましたよ!」
 横たわる或人の隣から、素っ頓狂な声が聞こえた。
 山下専務の声だ。
 「本当か!或人社長、良かった~~~」
 そう言って駆け寄ってきたのは、副添副社長だった。
 「俺、生きてるんですね……」
 見なれた顔を見て、自分の生の実感を取り戻す或人。
 そして、どうやら自分は病室にいるらしい、と現状が把握できていく。
 「ええ、ええ!あ、でも、ドクター・オミゴトによるとしばらくは絶・対・安・静、だそうですよ」
 或人の顔を覗き込んだ山下は、涙でクシャクシャだった。
 「まったく。君は毎度毎度死にかけて。今回はイズが体を張って助けてくれたから良かったものの……」
 「副社長、ハンカチを使われてはいかがですか?」
 「う、うるさいよ、シエスタ
 そう憎まれ口を叩く副添も涙声だ。
 「そうだ、イズ……!?」
 と、跳ね起きようとする或人だったが、全身の痛みがそれを邪魔した。
 「ご安心ください、或人社長。あなたの秘書型ヒューマギアはここにいます」
 そう言って、或人の隣に近づいてくる影があった。
 「イズ……?」
 それは、一体のヒューマギアだった。
 損傷により人工皮膚を維持できず、素体に近い姿となっていた。
 外装は焼け落ち、装甲はひどく傷ついている。
 特にダメージの大きいのは腕で、左腕の肘から先は吹き飛んでいる。
 これではいつものごとく、優雅に手を組むこともできない。
 しかし、それでも二本の足でしっかりと立ち、或人を見降ろしている。
 損傷は酷かったが、”あのとき”と違ってイズは確かに健在であった。
 「爆発の瞬間、イズは危険を覚悟で或人社長の救出に成功しました。結果、この状態となりましたが、このあとすぐに修理すれば、大事ないとのことです」
 イズの隣で立っていたシエスタが言葉を添えた。
 そう。
 あの時退避したイズだったが、即座に爆発の中へと跳び、自らの身を顧みず、或人達を救い出したのだ。
 ゼロツーの機動力であれば、それもまた不可能では無かった。
 「イズ、良かった、生きてて……」
 或人は心の底から安堵した。
 瞬間、ずどん、という音が耳元で響いた。
 「イ、イズさん……?」
 イズの、健在の右腕がやたら近い。
 「いま、或人社長のすぐ横にイズの拳が振り下ろされました。破損したベッドの修復費は、別途社長の御給料から引き落とされるよう手配します」
 シエスタが動じることなく解説した。
 副添と山下は「「ひええ~」」と驚いた声をあげて後ずさっていた。
 「あなたは、なぜこんな無茶ばかりするのですか!」
 それは、普段のイズからは考えられないほどの大声だった。
 「だって、イズがいなくなったら……」
 「いなくなっていい!」
 イズは叫んだ。
 「ヒューマギアは破壊されても代替機を用意すれば良い!素体もデータも同じならそれは『同じもの』!それで悲しむべきことは何もなくなります!でも!」
 悲痛な声が病室に響く。
 「人間にはバックアップが無い!脳を電子化させる技術もまだ発展途上です!あなたが死んだら代わりはいないんです!」
 ベッドに突き刺さったイズの拳が震えているように見えた。
 「あなたが欠けてしまったら、私はどうやって夢を叶えれば良いんですか!」
 ノイズ混じりのその悲鳴は、イズのものでは無いかのように錯覚しそうになるほどだった。
 実際、素体状態のイズは、ヒューマギアは、外見的に他のヒューマギアとの差異は、損傷部位しか無い。
 「それは、ヒューマギアだって……」
 「私が死んでも、何度だって”新しい私”を作ればいいでしょう!」
 イズの叫びは、どんな攻撃よりも、或人の胸に深々と突き刺さった。
 或人は、”今のイズ”が起動してから彼女に多くのことをラーニングさせた。
 ”かつてのイズ”についてのことも。
 しかし、それは……。
 (そうだ、それは……)
 自分の心臓の鼓動が、速くなるのを感じる。
 (彼女が知らなかった情報を教えただけだ)
 そして、イズの言わんとしている事、それを理解することを、或人の心が否定しそうになる。
 みっともなく悲鳴を上げそうになる。
 嫌だ。
 怖い。
 苦しい。
 どんな相手と対峙した時よりも大きな恐れが、或人の心を鷲掴みにしようとしていた。
 しかし……
 (或人さま)
 声が、或人の心に響いた。
 ”かつてのイズ”の声だ。
 いつも自分の後ろに立ち、背中を支えてくれた者の声だ。
 それは、或人の過去の記憶にすぎなかった。
 けれども、それは確かに彼の背中を押した。
 「ごめんよ、イズ。無茶ばかりして。いいや、そうじゃないよな……」
 或人は、”今のイズ”をしっかりと見た。
 「俺はずっと大切なことから目を逸らしていた。それが君を苦しめる。そんな簡単なこと、分かっていたハズなのに」
 包帯に包まれた手を、そっと彼女に伸ばした。
 「或人社長……」
 或人の体は、今すぐにでもバラバラになりそうなほどに痛い。
 だが、この先の言葉を続けることに比べれば、どうと言うことの無いと思えた。
 「”まえのイズ”はもう居ない」
 絞り出すように、或人は言葉を続ける。
 「君は彼女とは違う、別のヒューマギアだ」
 声に出す。
 声に出すと、その重みが感じられる。
 いくらネジの一本に至るまで同じ型が使われた素体であろうと。
 いくらラーニングしたデータが寸分違わず同じものであろうとも。
 目の前のヒューマギアと、”かつてのイズ”は別の自我を持った、別の存在なのだと。
 「でもさ、嬉しかったんだ」
 そして、或人が伝えなければならないことはまだ、あった。
 「嬉しい?」
 イズが首をかしげた。
 「そう、”君が”夢を持ってくれて。俺と一緒に心から笑いたいって」
 「はい。或人社長と心から笑うこと、それが私の夢です」
 「それは、君の夢だ。君だけの夢だ」
 或人ははっきりと告げた。
 イズの夢は、かつてのイズではなく、このイズが自らの手で抱いた夢なのだと、そう伝えたのだ。
 「……或人社長は、それを肯定してくれるのですか?」
 「当たり前だよ。だって俺たちのモットーは……」
 「「夢に向かって飛べ」」
 2人の声が重なった。
 或人は笑った。
 イズも笑った、と彼は確信した。
 それは”いまのイズ”との間に築いた確かな信頼関係による確信だった。
 「まぁ、俺はゼロワンだから、きっとこれからも危ない場面はたくさんあると思う」
 「或人さま……?」
 「でも、君を遺して死んだら絶対にダメだって、今度こそ分かったよ。なにしろ、君の夢に俺は欠かせないんだから」
 或人の言葉に、イズは静かにうなずいた。
 「イズ、2人で夢をかなえよう」
 「はい」
 そう言って、2人は頷きあった。
 そして或人は、
 「さよなら、イズ」
 と、決して届くことの無い言葉を、誰にも聞こえないほど小さく呟いた。

 

 

 数日後
 「と、言った舌の根が乾かない内から、そんな体で出社するなんて、或人社長はやはり無茶です」
 イズは、社長室に現れた或人に苦言を呈した。
 或人の全身は包帯だらけ。
 右腕もギブスで吊っている。
 左腕には松葉杖が握られていた。
 どう見ても勤務に臨める状態では無かった。
 一方で、イズは既に修理が完了していた。
 「いや~、銀座エリアの修復を人間もヒューマギアも頑張ってるって聞いたし、じっとしてられなくってさ」
 そう言ってのけてしまうところが或人らしいと言うべきか。
 ふとイズがモニターを見ると、1$(ワンダラー)のオーナーがテレビ番組で熱弁を振るっている。
 『過去のファッションのデータを悉く記録したヒューマギアが考案するデザインに対して、人間のデザイナーが……』
 彼女も怪我を負っている様子だったが、言動からはまるでそうは思えなかった。
 「分かりました、大変不本意ですが、或人社長の体調を考慮した業務スケジュールを構築させていただきます」
 「ありがと、イズ」
 「社長秘書として、当然のことをしたまでです。……今、スケジュールをライズフォンに転送いたしましたので、あとでご確認ください」
 そう言って、イズは或人の体を支え、社長の席に座らせた。
 或人は左手でライズフォンを取りだし、スケジュールを確認した。
 「さすがイズ。完璧なスケジュールだね」
 「ありがとうございます」
 イズがそう頭を下げると、或人がまじまじと彼女の姿を見た。
 「どうかされましたか?」
 「イズ。もしかして、制服ちょっと変えた?」
 その言葉通り、イズの服装は今までよりも白の割合の多い、少し華やかな色合いに変わっていた。
 「はい。いつまでも今までと同じ姿と言うのも、少し……味気ないかと思いまして」
 「うん、良いと思う」
 と、言って或人はハッとした様子で両手を広げた。
 「イズのニューカラーはあの空と同じくカラっと清々しい!はい、或人じゃーないと!痛たたた……」
 最後にビシ!と指を前に向けようとして、痛みに悶絶する或人。
 「今のは、カラーと空、つまり空(から)をかけた素敵なギャグですね」
 「いや、だからギャグを説明しないで!」
 そうして、2人はいつものやり取りを交わし、日常へと戻って行った。

 

 

 これからも、2人は生きる。
 失われたものの痛みを胸に抱いて。
 それでもなお、前を向いて。
 過酷な現実の先に、素晴らしい夢を叶える未来が待っていると。
 そう信じて。